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音を10倍楽しむ

『ITU-Rスピーカー配置は絶対か?
 ~家庭でのサラウンドスピーカー設置自由度の検証~』

 ホームシアターに挑戦するべく、このwebページにある豆知識「vol.02 スピーカーの置き方」の解説図に従ってサラウンドスピーカーの設置場所を検討すると‘理想的な円形’ITU-R推奨配置と現実の空間の中でどこに置くべきか迷うことがあります。リアルなサラウンド再生を求めながらも置き方にはどれくらいの自由度があるのか。技術メンバーが3年に渡って調査して導き出されたスピーカーシステム設置自由度についてのお話しです。


5.1chサラウンド再生の現状を調べる

 すでに5.1chサラウンドサウンド再生にチャレンジしている人達の設置の現状はどうなっているのでしょうか。友人知人に声を掛けて自宅に設置してある3本のフロントスピーカーと2本のリア(サラウンド)スピーカーの位置関係を図面に起こしてもらい82サンプルを集めました。得られたデータは実に興味深い内容で5つのタイプに分類することが出来たのです。

(パターン1)…5本全てのスピーカーが床面から高い所に配置されている
(パターン2)…2本のリアスピーカーのみ床面から高い位置に配置されている
(パターン3)…左右フロントスピーカーの間隔が狭く、2本のリアスピーカーの間隔も狭い配置されている
(パターン4)…ITU推奨に近い配置
(パターン5)…2本のリアスピーカーを視聴ポイントの横に配置されている

パターン


実際に音を聴いて評価実験する

 このように分類されたパターンはどの程度正確にサラウンドサウンドを再現できるのか?ITU推奨設置のスピーカーシステムとの効果の違いを聴き分けるテスト(評価実験)を行います。テストする配置パターンは次の7つに設定しました。

(配置 1)…2本のリアスピーカーの間隔が狭い設置を想定した
(配置 2)…2本のリアスピーカーが床面からある程度高い設置で壁面取り付けを想定した
(配置 3)…センタースピーカーを床面ぎりぎりまの高さまで下げ大型スクリーン使用時を想定した
(配置 4)…2本のリアスピーカーが視聴ポイント真横に設置された場合を想定した
(配置 5)…3本のフロントスピーカーが床面から低い位置にあるシアターラックなどを想定した
(配置 6)…2本のリアスピーカーの天井埋め込みを配置想定した
(配置 7)…5本全てのスピーカーシステムの天井埋め込み配置を想定した

配置

配置


評価

 評価には3種類のサラウンド音源を用意して「臨場感(包まれ感)」「定位感」「移動感」の3つをキーワードとして設定し、20から50歳代の25名の音響専門家に聴取をお願いしました評価結果がこの表です。3がITU-Rと同等、数字が大きくなると優れている、小さくなると劣化しているという評価になります。
評価実験を進めて有る程度の結果傾向が出て来るうちにスピーカーの煽り角度によっても結果が影響されることに気が付きました。そこで、天井埋め込みタイプを意識した配置やシアターラックを意識した床面に近い配置などで、スピーカーの首振り角度を変化させて追加評価も含めて行いました。

評価


評価実験から得られた結論

ITU-R基準配置との比較では
(1)リアスピーカーを視聴ポイントの真横に設置するなど開き角度が広すぎる場合臨場感が劣化する傾向にある
(2)フロント側を通常の高さにしてリアスピーカーだけを天井に配置すると移動感が劣化する傾向にある
(3)全てのスピーカーを天井に設置すると定位感が劣化する傾向にある
(4)リアスピーカーがフロントスピーカーよりも少し高い、またはセンタースピーカーのみ少し低いといった配置はITU-R基準
  配置と遜色は無い
と言ったことが判りました。


一般家庭での設置ガイドライン

これらのことから技術メンバーが提案するガイドラインは以下のようになります。
(1) リアスピーカーの開き角度
100度から135度を目安に設置する。これはITU-Rの100度から120度という指定よりも範囲が広がる分だけ自由度が増すことになります。
(2) センタースピーカーの高さ
フロント側のスピーカーでセンターのみ低くしたい場合20度以内に設置する。テレビスクリーンの大型化に伴いセンタースピーカーの配置場所が確保しづらいケースなどでも自由度が増すことになります。
(3) インウオール設置
フロント、リア各スピーカーを壁面設置する場合仰ぎ角度は16.7度以内を目安にする。
(4) リアスピーカー距離
ITU-R基準では全てのスピーカーが視聴位置から等距離を求めているが、リアスピーカーのみフロントスピーカーとの距離±10%まで許容できる。
(5) 音場補正ツールの活用
以上のように物理的な位置関係を確認した上でAVアンプに内蔵している自動音場補整機能を併用することで制作者が意図したサラウンド効果を充分楽しめる。

ガイドラインに示した通り、従来提唱されてきたITU-R勧告配置よりも自由度が確保されています。この範囲の中でトライして、ぜひとも素晴らしいサラウンドサウンドをお楽しみください。

『バーチャルサラウンド』

 映画館では、大きなスクリーンと暗く広い空間、迫力のある大音量、前後左右に移動する音像と、日常を忘れて楽しい時間を過ごすことができます。
 一方、ホームシアターのサラウンドの楽しみは、DVD、BDソフトだけでなく、BS放送、地上波デジタル放送にも広がってきました。オリンピック、サッカーワールドカップをサラウンド放送で楽しまれた方も多いのではないでしょうか。映画や音楽をサラウンドで楽しむには、たくさんのスピーカを配置したシステムが必要と考える方が多いと思いますが、バーチャルサラウンドを使えば、簡単です。手軽で簡単なバーチャルサラウンド再生で映画、音楽、テレビを楽しみましょう。

リアルサラウンド再生とバーチャルサラウンド再生システム

バーチャルサラウンド再生: 視聴者の前方に配置されたスピーカだけで、包み込まれるような音を楽しむ
サラウンド再生
リアルサラウンド再生: 視聴者の取り囲むように配置されたスピーカを使い、楽しむサラウンド再生

 ディスプレイの薄型化、大型化は、進みましたが、音響機器を設置するのは大変です。「サラウンドスピーカを置くスペースがない」と、サラウンドの映画・スポーツなどをサラウンドで楽しむことを諦めている方は多いと思います。5.1ch、7.1chリアルサラウンドの素晴らしさには及ばないまでも、大画面映像の迫力に負けない音響効果を、バーチャルサラウンド再生は少ないスピーカで実現します。

  リアルサラウンド再生 バーチャルサラウンド再生
システム AVアンプ、左右スピーカ、センタースピーカ、サラウンドスピーカ(5.1chもしくは7.1chスピーカなど3個以上のスピーカ)、BDプレーヤなど 2ch分のスピーカとアンプ(一体型が多い)、BDプレーヤなど
設置スペース 視聴者を取り囲むスピーカの配置
後方スピーカの設置場所、AVアンプ置き場所必要
テレビの周辺にスピーカを設置
配線 各スピーカとアンプ間の配線、AVアンプとBDプレーヤ、テレビとの接続 アンプスピーカ一体型ならプレーヤ、テレビとの接続だけが必要
調整 各スピーカ間の距離設定、音量設定などが必要 必要なし

 リアルサラウンド再生システムは、映画の発展と共に進化を続けてきました。映画館のシステムはアナログからデジタル、そしてデジタル音声の高音質、多チャンネル化と進化し続けています。それに合わせて、現在のホームシアター再生は、映画館の音環境を再現するために、複数個のスピーカで視聴者を囲む5.1チャンネル、7.1チャンネルの再生システムが一般的です。一方、VHSテープによるアナログサラウンドの時代から、簡単にサラウンドで映画を楽しむため、少ないスピーカでサラウンドの再生を行うバーチャルサラウンド再生システムが提案されています。近年、デジタル信号処理用ICの飛躍的な性能向上により、高精度で、より簡単なバーチャルシステムが可能になりました。
 ホームシアターは、映画館の迫力のある音を家庭で再現することがひとつの目標です。ただ、空間の大きさの違い、視聴者とスピーカとの距離の違いなど、映画館とホームシアターの音再生環境は異なります。

【映画館】

前方の左右スピーカ、センタースピーカ、サブウーハーがスクリーンの裏に設置されています。また、サラウンドスピーカが側面、後方に複数個置かれ、囲まれるようなサラウンドが再現されます。側面、後方のスピーカが多いことと視聴者とスピーカの距離が離れていることで映画館ではスピーカの存在を意識しない自然なサラウンドが再現されます。

【ホームシアター】

リアルサラウンド:前方の左右スピーカ、台詞の再生に重要なセンタースピーカがスクリーンに隠れていないなど映画館とは異なる特徴があります。5.1チャンネル、7.1チャンネルと多くのスピーカを使用することで前後の移動感は映画館並みに再現されますが、映画館よりサラウンドスピーカの数が少ないため、包囲感は映画館に及びません。

 

バーチャルサラウンド:スピーカが少なく、センタースピーカ、サラウンドスピーカが仮想音源(聴覚の錯覚を利用してスピーカのないところから聞こえるようにする)を使う方法で、後方にスピーカがないため、移動する音の再現などは難しくなりますが、スピーカを意識しない自然なサラウンド感が得られます。ただ、バーチャルサラウンドは、聴覚の錯覚を利用する方法なので、スピーカと視聴者の位置関係が重要になります。一般的に、サラウンドを効果的に試聴できるエリアは、リアルサラウンドより狭くなります。

 

バイノーラル録音、トランスオーラル処理

 映画を再生するバーチャルサラウンドシステムと似た物に、バイノーラル録音信号のトランスオーラル処理システムがあります。バイノーラル録音は、ダミーヘッドもしくは実頭の耳にマイクをつけて録音する方法です。この録音コンテンツをヘッドホンで試聴すると、録音時の臨場感を効果的に再現できます。それをヘッドホンではなくスピーカで再生する方法がトランスオーラル処理システムです。トランスオーラル処理は、ヘッドホンで試聴している状態を、スピーカによる試聴で再現することを目的にした処理です。つまり、右スピーカから出力される音は右耳だけに届けられ、左スピーカから出力される音は左耳にだけ届くように処理します。通常スピーカによる試聴では右のスピーカから出力された音は右耳だけではなく、左耳にも届きます。そこで右のスピーカから出て左の耳に届く音を打ち消すような信号を左のスピーカから出力します。でもこの打ち消し用の信号が右の耳に到達してしまいます。そこで打ち消し用の信号を打ち消す音を右のスピーカから出力します。これを繰り返えすことで、右スピーカから出力される音は右耳だけに聞こえ、左スピーカから出力される音は左耳だけで聞こえるようになります。この処理をクロストークキャンセル処理と言います。

 

 バイノーラルで録音した音情報は、耳に到達する情報を全てそのまま再現することを目的にしています。耳の近くを飛ぶ「蜂の音」は近くに聞こえ、「カラスの鳴き声」は頭上遠く離れたところから聞こえます。また、音源が後ろにある場合、横にある場合、さらに上方にある場合も両方の耳に到達する情報をそのまま録音し再生します。問題は、音方向を知覚できる人間の能力にあるかもしれません。特に両耳と等間隔に音源がある場合、真正面、真後ろ、真上などは、実生活においてさえも、方向、距離感が認識しにくいものです。ただ、バイノーラル録音トランスオーラル処理は上方にある音源の再現など、2本のスピーカで3D的な録音再生が可能な方式と言えます。また、耳に到達する情報は、頭の形、耳の形など個人差があり、人それぞれ異なります。人によって音の伝わり方が異なることを頭部伝達関数 (Head-Related Transfer Function, HRTF)といいます。そのため、視聴者の耳にマイクを着けて録音し、再生するのが一番効果的といえるでしょう。

 

バーチャルサラウンド再生

 トランスオーラル処理は、再生スピーカと視聴者の距離、位置関係が重要になります。それはふたつのスピーカから出力される信号を打ち消し合うために、距離(=時間)がキーポイントになるためです。バーチャルサラウンド再生もスピーカと視聴者の関係が重要になります。

 バーチャルサラウンド再生とトランスオーラル処理の大きな違いは、仮想音源(サラウンドスピーカ、センタースピーカ)を想定することです。バーチャルサラウンド再生は、本来5.1chもしくはもっと多くのスピーカで再生する環境を再現することです。つまり、再現するスピーカが仮定されます。バイノーラル録音トランスオーラル処理では、仮想スピーカは特定されませんが、バーチャルサラウンド再生では、この位置からスピーカの音が再生されるはず、という仮定の下に信号処理されます(方向定位処理)。つまり、単純に表現しますと、バーチャルサラウンド再生ではトランスオーラル処理+方向定位処理が実行されます。

 

バーチャルサラウンド再生装置

もっともベーシックなシステムは、2(.1)ch:Lch+Rch (+SW)です。豊かな低音が欲しい方は、サブウーハーが追加されたシステムになります。またオーディオメーカー各社から、色々な方法でより効果的なバーチャルサラウンドシステムが提供されています。バーチャルサラウンドシステムではないのですが、フロントに置いたスピーカだけでサラウンド再生を楽しめるように、サラウンド信号に指向性を持たせたスピーカで再生する方式もあります。

  1. 2.1ch セパレート・スピーカ・タイプ
  2. バー・スピーカ・タイプ
  3. ラック・スピーカ・タイプ
  4. 小型センター・スピーカ・タイプ

 どの方法も、迫力のある映画、音楽を簡単に楽しむことが可能です。バーチャルサラウンド再生は、スピーカの置き方、視聴者の聴く位置により効果が変りますが、それはステレオで音楽を聴くのと同様です。複数のスピーカを使用するリアルサラウンド再生システムでも効果的なサラウンド再生には、試聴位置とスピーカの関係が重要になります。トランスオーラル処理、バーチャルサラウンド再生での説明のように、スピーカから出力される音響信号が左右の耳に直接届くように信号処理されます。
 このためスピーカと耳の距離、両耳に到達する距離(時間)が等距離である位置、左右のスピーカの中心軸上で聴くと効果的なサラウンドが楽しめます。ふたつのスピーカの中心で聴くと良いというのは、音楽のステレオ再生と同じです。とは言え、中心からずれた位置でも音楽が楽しめるように、バーチャルサラウンド再生もテレビ内蔵のスピーカで聞くのとは全く異なる迫力で楽しめます。BD/DVDによる映画だけでなく、地上波デジタル放送によるサラウンド放送も増えています。映画、テレビドラマ、スポーツ色々な楽しみ方ができるでしょう。

 

代表的なバーチャルサラウンドシステム

 
I. 2.1ch セパレート・スピーカ・タイプ

 左右2本のスピーカとサブウーハーのシステムが一般的です。スピーカはテレビの両側、もしくは前面に設置します。テレビの大きさ、再生環境に合わせてスピーカが選択でき、設置の自由度が高いシステムです。
 簡易なシアターシステムで構築することも可能ですし、AVアンプとスピーカを別々に購入し組み合わせる方法もあります。ほとんどのAVアンプにはスピーカを2本だけ使用した再生モードが搭載されていますので、高音質なバーチャルシステムも実現できます。
使用上の注意点は、ディスプレイの大型化により、左右のスピーカが離れて設置されるため、センターチャンネルの音像が小さくなりがちです。センターチャンネルの再生レベルを調整することで効果的なサラウンド再生が楽しめます。

 
II. バー・スピーカ・タイプ

 左右のスピーカが一つのボックスに組み込まれた再生システムです。アンプが内蔵されているものが多く、テレビもしくはBD/DVDプレーヤと接続するだけと接続も簡単、テレビの前に置くだけで設置も簡単です。スピーカの距離が変えられませんが、逆に各チャンネル間の音量バランスやバーチャルサラウンド信号処理は最も効果的な係数に設定されています。後からサラウンド用のスピーカを追加できるものもあり、予算に合わせて購入することが可能です。
 スピーカの角度が変えられませんので、試聴位置に注意することで効果的なサラウンド再生が楽しめます。

 
III. ラック・スピーカ・タイプ

 テレビの置き台にスピーカとアンプが組み込まれたシステムです。接続も容易で、設置場所に悩むこともなく、簡単に楽しめます。バースピーカ同様、スピーカの角度が変えられませんので、試聴位置に注意することで効果的なサラウンド再生が楽しめます。

 
IV. 小型センター・スピーカ・タイプ

 スピーカ、アンプ、信号処理機能を全て一つの箱に組み込んだシステムです。多くのバーチャルサラウンド処理は、左右のスピーカから出力される音声信号を左右の耳にそれぞれ届けるように、クロストークキャンセル処理を実行しますが、小型センター・スピーカ・タイプでは、少し信号処理が異なります。クロストークキャンセル処理を使用するシステムでは良好な試聴エリアが狭くなる傾向があります。一方、小型センター・スピーカ・タイプでは視聴エリアを広くできる可能性がありますが、音像の移動感の再現は苦手です。家族でサラウンドを楽しむ時など、複数の人に効果的なサラウンドを提供します。

『映画の音、放送の音、音楽の音』

 ホームシアターで一番楽しみたいと思うのはまず映画でしょう。初めてホームシアターを作ろうとしたときに悩むのが映画の音に合わせると音楽を楽しめないのではないか、別の再生機器を用意しなければならないのかという疑問です。そこで、それぞれのジャンルの音がどのように作られているか知ることで見慣れた(聴き慣れた)作品に対して新たな発見があるかもしれません。

  • 映画の音

     映画の音は数十から100トラックに及ぶ様々な音素材から作られています。殆どの音は撮影現場で録音された音ではなく、後からスタジオで収録された音となっています。足音やクラッシュする音、監獄の扉の開閉音など全てがスタジオで収録された音です。このような効果音を製作する人を「Foley Artist(フォーリー アーティスト)」と呼び、映画製作の中で重要な役割を担っています。台詞は、ロケ現場で収録しますが、周囲の環境によりそのままでは使えない場合もあります。このようなときには「アテレコ」であとから別取りの台詞をはめていきます。この他、バックの音楽などを収録し、最後にこれらの音をまとめ上げて一つの作品に仕上げています。

    ゴミ捨て場ではありません
    靴音の収録

    Foley スタジオ

     映画館で聴く映画の音は迫力があり大きなスクリーンと相まって一つひとつのシーンを盛り上げています。映画館での音響は家庭と違い、完全にコントロールされた環境で再生されます。暗騒音や残響時間、壁面からの反射音、客席での周波数特性など一定の基準を満たすように作られています。また、平均的な再生音圧は85dB と非常に高いレベルを想定しています。このため、爆発音などの大音量から、衣擦れの細やかな音まで漏らさずに再生できます。映画館での再生基準はそのまま、製作現場であるダビングステージに適用されます。ダビングステージでの最終ミックスは映画館と同等の環境でおこなわれるため、完成された作品は、基準を満たした映画館であれば世界中どこでも同じクオリティでの再生が可能となります。しかし、家庭での再生では、音圧が65dB 程度といわれています。また、暗騒音も映画館に比べると大きな値となっています。このため、小さな音から大きな音までのダイナミックレンジが十分に取れないことや、再生する機器が多岐に渡ることを想定して、DVD やブルーレイではダイナミックレンジを圧縮し、小さな音から大きな音まで家庭環境で十分に楽しめるように再編集をしています。

    映画フィルムのサウンドトラック 映画の音は品質がよくないと思われている人々も多くいます。確かに、20年ぐらい前までは、映画の音声は「サウンドトラック」と呼ばれる光学記録の音声トラックに記録されていたため、周波数帯域や歪み、雑音など決して満足できる状態ではありませんでした。1990年以降、音声をデジタル記録する方式が登場するとこれらの特性は飛躍的に改善されていきます。それと同時に、製作現場でもデジタルによる編集が行われるようになり、マスター音源の品質はCD を遙かに上回る96kHz/24bit で製作されるようになっていきます。DVD の時代には容量が十分でなく、マスター音源の品質を届けることは出来ませんでしたが、ブルーレイの時代となった今は、マスター音源に相当する音を聴くことが可能となりま した。映画館でも大きな変化が起こりつつあります。「デジタルシネマ」の採用です。音楽配信などと同様に、フィルムを配給するのではなく、デジタルデータとして各館に配信し、それをハードディスクに蓄え再生するシステムです。これによりフィルムで制限されていたことから解放されより高音質での再生が可能となっています。このため、映画館をオペラやスポーツなどのライブ中継で使う試みも行われています。

  • 放送の音

     放送では他のジャンルに比べて非常に多種多様な音声を扱います。マイク1本で済む街頭インタビューから総計200chに及ぶゴルフ中継など収録する素材に応じたマイクの選定、録音のノウハウが要求されます。また、映画や音楽と大きく異なるところで放送には送出という最終信号を電波に載せる工程があることです。最終ミックスで適切なレベルに調整されていても、電波に載せる変調の段階でクリップしてしまうことがあります。放送では一瞬でも音が歪むことや途切れることを「事故」として恐れていますので、音質を取るか、安全をとるかといったことで制作担当と送出担当との間でいつもギリギリの調整が行われています。

    サラウンド番組製作スタジオ 放送の音質といったときに、満足な音質が作られていないというイメージがあります。確かにテレビ受像器から出る音はたかだか数センチ口径のスピーカーから再生されるため満足できる音質ではありません。しかし、最近の放送の製作環境は大きく進歩して市中のポストプロダクションスタジオと比べても引けを取らないほど充実してきています。これは、番組の2次利用が進み、放送だけでなくパッケージとしての利用も想定した作りをする必要があるためです。また、放送では多彩なジャンルの番組を扱うためモニタースピーカーにはどのような場合でも適切なバランス判断ができることが求められ、各局とも「基準モニタースピーカー」を定めています。このように放送の製作現場は大きく進歩し、音質は非常に向上していますのでホームシアターを楽しむソースとして十分に活用できます。デジタル放送の特徴の一つである5.1サラウンド放送は年間1400本に及ぶ放送がされており、音楽や映画以外にもスポーツやドキュメント、ドラマなどを楽しむことができます。是非、ホームシアター機器と接続してその高音質を楽しみたいものです。このときに注意しなければならないのが、TV のデジタル音声出力を「自動」または「AAC」にしてサラウンドの出力が行われるようにすることです。通常はAAC をPCM 変換したステレオ出力となっていますので効果が今ひとつと思われている方は確認してみて下さい。

     デジタル放送では音声のチャンネルを複数同時に送信できますので、放送局によっては、サラウンドの音声と、ステレオの音声をそれぞれ最適にミックスし送信している場合があります。TV やレコーダーの音声を主音声、副音声で切り替えることで、お手持ちの機器に合った音声を選択することも可能となっています。サラウンド音声はTV 側でも自動でステレオにダウンミックできますが、台詞が聞き取りにくいなどバランスが崩れる場合もありますので、複数の音声を送信する配慮は喜ばしいことです。

  • 音楽の音

     音楽のサラウンドサウンドというとホームシアターとは馴染まないのではという疑問がありますが、音楽作品にもホームシアターを生かせるものが多数ありますのでその豊かな表現に触れてみて下さい

     クラシックはアンビエントが中心でサラウンドのメリットがあまり感じられないと思われがちです。しかし、サラウンドサウンドでなければ聴けない曲があります。ベルリオーズのレクイエムは「バンダ」と呼ばれる客席に演奏者を配置する形態で有名ですね。マーラーの交響曲でも空間表現するためステージ外への配置がされているとの解釈がされている場合があります。ビバルディにも2群のオーケストラのための曲があり、二つのオーケストラがソリストや指揮者を挟んで演奏されます。極めつけはタリスの「40声部のためのモテット」です。5声部8群のコーラスが聴衆を囲み40の旋律を歌う曲です。ある時はソロである時は40の声部が一斉に聴衆を取り囲み奏でる様はサラウンドでなければ味わえない世界です。これらの音楽はブルーレイやSACD、DVD-Audio などのディスクで提供されていますので体験してみて下さい。

     音楽のサラウンドには幾つかの収録方法があります。1)通常の演奏会のようにステージの演奏者をフロント3chのスピーカーに配置し、リアスピーカーは響きなどのアンビエンスを再生するもの。2)ポップ系で使われる演奏者を取り囲むように演奏者を自由に配置するもの。3)サウンドウォールと呼ばれる前後左右の方向性を持たずに聴ける配置です。

    音楽サラウンドのサウンドデザイン

     1) の収録方法ではメインマイクロホンと呼ばれる、オーケストラなどの演奏者全体を捕らえるマイクアレンジを中心に収録します。メインマイクロホンのアレンジには「フカダツリー」や「デッカツリー」「INA5」などいろいろな方式が使われます。補助マイクとして、各楽器を取るためのスポットマイク、さらに、会場のアンビエンスを収録する「ハマサキツリー」などを使いコンサートホールの雰囲気を再現しています。

     2) では、楽器ごとに録音し、ミックスの段階で5.1チャンネルのそれぞれに振り分け音楽空間を創造していきます。この録音では、「サウンドデザイン」という概念が非常に重要となり、音楽の内容に応じた楽器配置や音の繋がり、アンビエンスの付け方などイメージを明確にして製作が進められます。

    様々なメインマイク
    アンビエント収録マイクの例

    ホールでの収録

     3) は、演奏者はステージ、聴衆は客席といった明確な関係ではなく、自由な方向を向いて聴くことが可能な録音方法です。このような作品では、作曲の段階から最終的な音の再生イメージを楽曲に盛り込み、空間表現の作品として仕上げていきます。作曲家の富田勲氏の作品はこのような効果を狙った作曲が行われています。

     音楽作品はともすればコンサート会場のイメージで聴くことが一般的と思われており2chステレオで十分と考えがちです。しかし、ここで紹介しましたように、新たな表現として、また、空間を意識した演奏形態など様々な作品があります。このような世界に触れられるのもホームシアターそしてサラウンドサウンドならではかもしれません。

    次回へつづく

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